木村豊氏とのインタビュ


木村豊氏
MW研修生:ステージ①
BIO:2013年に、日本ソムリエ協会の呼称資格ワインエキスパートを取得致しました。2014年からの米国ニューヨーク勤務より帰国後、WSETのLevel-3及び4を取得。ワイン雑誌への寄稿や、ジャパン・ワイン・チャレンジ(JWC)での審査員等もさせて頂いています。

マスター・オブ・ワイン研修生になった動機を教えていただけますか?

私の年代の日本での義務教育。正しい答えは一つ、それを暗記するというのが典型的でした。MWプログラムでも、基盤となる知識は必要。ですが、自ら能動的に動いて、ブドウ畑や醸造、品質管理、販売の現場で働く方々から、リアルなお話を伺う所が違います。

様々な生産者の考え方の違いを分析して、自分なりの意見を纏めます。ですから、答えは一つではありませんし、良い意味で批判的な思考が必要になります。

日本は、ワイン消費国としても生産国としても、さらに伸びて行く可能性があります。ですから、研修を通してグローバルな学びと人脈を培えば、海外と日本の架け橋として、業界に些少なりとも、貢献できるかもしれないと思った次第です。

オーストラリアは初めてですか?今回の訪問でどのような印象を持ちましたか?

シドニーやメルボルンと言った大都市は幾度か訪問した事がありました。でも、アデレード・ヒルズ、バロッサ・ヴァレーやマクラーレン・ヴェールのワイナリーを巡り、MWプログラムのセミナーに参加するという、濃密な時間を送ったのは、今回が初めて。

日照に恵まれて乾燥した、夏でも日陰は涼しい、地中海性気候。高温多雨で苦労する日本の生産者からすれば、楽園のような環境では無いでしょうか。

また、如何に市場にアピールしていくかも、良く考えていると思います。MBA(経営学修士)の事例でも出てくるイエロー・テイルに代表される、戦略的な発想とチャレンジ精神は大いに健在。まだまだ伸び代は大きいと思います。

「Understanding Contemporary Australian Pinot Noir」マスタークラスの印象と、オーストラリアワインへの理解をどのように深めたか教えてください。

オーストラリアには、幅広いピノ・ノワール産地があります。セミナーでは、温暖な産地のハンター・ヴァレーから、最も冷涼なタスマニア迄の多様性を味わいました。  

数あるクローンから、歴史あるMV6や香りが優れたディジョンクローン777、骨格に秀でる667などを選抜。情熱をもった生産者たちの努力で、複雑で滋味深いワインが造られるようになりました。最近は、果実の高い成熟度合いよりも、エレガントさを訴求する方向に舵が切られています。

ブラインド・テイスティングでしたが、ご縁があったショー・アンド・スミスがタスマニアで手掛ける「トルパドル」と、「アシュトン・ヒルズ」が、偶然、最も好きな2本になったことが、印象に残りました。

オーストラリアのワイン業界において、特に興味深い、または将来性があると 思われる注目すべきトレンドやイノベーションがあれば教えてください。

オーストラリアの技術革新と先見の明には目を見張るものがあります。スクリューキャップ導入で先頭を切ったのもオーストラリア。

近年では、ナチュラルワインやオレンジワイン好きの日本の消費者が注目する生産者も活躍。懐の深さを感じます。オーストラリア国内では、イタリアやスペイン、オーストリアなどの品種を使ったワイン造りや、プレミアム・ワインへの需要シフト、低アルコールなどの動きがあります。栽培では、オーガニックやビオディナミ、醸造や熟成の工程でもアンフォラやコンクリートエッグなどが導入されています。どの様な方向性を取るにせよ、持ち味のピュアで良く成熟した果実味は共通した強みになっています。

あなたの意見では、ワインを真に特別なものにするものは何ですか?また、印象に残ったオーストラリアワインの例を教えてください。

ワインが特別なものになるとき。それは、ある人の特別な時間に、ワインが寄り添った時でしょう。ワインの物語が、そのワインに出会った人の経験の一部になれば最高です。

今回、訪問したワイナリーの一つ、バロッサ・ヴァレーのアルキナ・ワイン・エステート。高名な地質学者のペドロ・パッラと共同研究をしています。異なる土壌のグルナッシュから、全く同じ醸造方法の2つの違ったキュヴェを造ります。これをテイスティングすると、骨格や果実感の違うワインが出来上がります。「テロワール」の違いというものが、皮膚感を伴って、体に染み込んで来ます。こうした、自らの体験がワインの味わいと重なったときに、ワインは特別なものになります。

日本の消費者にとって、オーストラリアワインの魅力は何だと思いますか?お勧め のオーストラリアワインのフードペアリングはありますか?

高い技術水準に裏付けられた、ピュアでクリーンな果実味豊かなワイン。最近のオーストラリアのワインは、様々な食事とうまく調和する、新樽やアルコールも抑制されたエレガントなものが増えました。赤ワインなら、ピノ・ノワールと見紛う様な、冷涼産地のシラーズ。そして、キビキビした酸味が、果実味をタイトに引き締める、ヴィクトリア州やタスマニアのスパークリングなら、繊細な日本料理にも良いアクセントを与えてくれる事は間違いないでしょう。

今後は、更に、多様性ある特徴を分かりやすく打ち出して、消費者が広く産地を思い浮かべられる様になると、オーストラリアワインのファンがどんどん増えると思います。